マッチングサービスには、しっかりと出会えるものと、かなり運がよくないと出会えない、いわゆる出会えない系があります。
運営側がしっかりしている大手のマッチングサービスであっても、結局は登録するユーザーによって出会えるか、出会えないかが決まります。
つまり、真面目に交際を希望しないユーザーが増えてしまえば、ちゃんとしていたサービスもすぐに出会えない系になってしまうのです。
運営側の監視が弱いとサクラ・業者が増える?
加えて、マッチングサービスでのユーザーの行動を監視して、不正や規約違反があった場合にはすぐに対応することが運営側には求められます。
もし、見て見ぬ振りをしてしまえば、どんどん出会えないマッチングサービスになっていきます。
ただ、サクラへの対策は少なからずコストがかかりまし、免許証などで本人確認を実施する場合には人件費もさらにかかります。
これらにしっかりとコストを払わなければ、ユーザーの満足度は下がっていき、利用者が離れていくのです。
出会えない系は欠陥品ばかりのレモン市場?
アメリカの俗語でlemon(レモン)とは、欠陥品を指します。
もとは、レモンはアメリカでは主に質の悪い中古車のことをいい、実際に購入して走らせてみなければ質が悪い中古車か、ちゃんとした中古車なのか判断できないような買い手にとって購入前にサービスや商品の価値が判断できないようなマーケットをレモン市場と言います。
レモン市場の問題は、質の悪い商品、サービスが増えることによって疑心暗鬼になった買い手が良い商品に対しても買い渋りが発生してしまうことです。
これは、マッチングサービスでも言えることです。
登録してみないとちゃんと出会えるかどうか分からないのでは、ユーザーは出会えないのではないかと疑い、結局は会員登録をしなくなるのです。
ゲーム理論でレモン市場を分析
例として、2つのマッチングアプリを考えてみましょう。
1つ目は、ちゃんと出会えるマッチングアプリで月額料金が4,000円だとします。
2つ目は、実は出会えないマッチングアプリなのですが、同じく月額料金を4,000円に設定しています。
どちらも無料会員が用意されているものの、実際に出会えるのかを判断するためには有料会員になる必要があります。
前提条件として、有料会員になった場合、出会えるマッチングアプリなら1か月で恋人ができ、出会えないマッチングアプリではその名の通り出会えません。
もし出会えるマッチングアプリであれば、4,000円を払ったとしても恋人ができるため総合的なユーザーの得る利得はプラスになります。
反対に、出会えないマッチングアプリの場合には、月額料金分がユーザーにとっての損となります。
確率 | 月額料金 | 利得 | |
出会えるアプリ | 1/2 | 4,000円 | 1,000円 |
出会えないアプリ | 1/2 | 4,000円 | -4,000円 |
ユーザーの期待値はどのくらい?
マッチングアプリが2種類あり、どちらかが出会えるアプリ、どちらかが出会えないアプリだとします。
経済的にどちらか1つしか有料会員にしかなれず、直感でどちらか1つを選びます。
恋人ができればユーザーの利得は1,000なので、月額料金以上の満足度を得られます。
この場合の期待値を計算してみましょう。
【ユーザーの利得の期待値】
(出会えるアプリを選んだ場合の期待値) + (出会えないアプリを選んだ場合の期待値)
(1,000 × 1/2) + (-4,000 × 1/2) = 500 + -2,000 =-1,500
この場合には、期待値がマイナスになるので、ユーザーは有料会員登録をしなくなります。
出会えない系マッチングアプリが料金を安くしたら期待値は変わる?
出会えないマッチングアプリは、サクラや業者に対して監視を徹底していないため、その分運営コストを抑えることができ、月額料金を下げることが可能だとします。
ユーザーからは自分の選ぶマッチングアプリがどちらかは分からないため、出会えないアプリでもこれまで通りに4,000円の料金をとった方が運営会社にとっての利益は大きくなります。
そのため、出会えないマッチングアプリを運営する会社は、アプリをリリースする際に料金設定を2,000円か4,000円かを選ぶことができるとします。
確率 | 月額料金 | 利得 | |
出会えるアプリ | 1/2 | 4,000円 | 1,000円 |
出会えないアプリA | P/2 | 4,000円 | -4,000円 |
出会えないアプリB | (1-P)/2 | 2,000円 | -2,000円 |
ゲーム木による分析
出てくる数字が増えたので複雑になったかのように見えますが、実はユーザーにとっては大きな変化はありません。
もし、月額料金が2,000円のマッチングアプリがあれば、サクラや業者の監視体制が不十分な出会えないマッチングアプリなので登録をしなければ良いのです。
ゲーム木とは、ゲーム理論における分析手法の1つで、プレイヤー(アプリ運営会社とユーザー)が順番にアクションを選択する場合に選択ごとの結果を分かりやすく示します。
Natureとは、ユーザーからはマッチングアプリが出会えるのか、出会えないのかが分からないため(自然の)女神によって完全にランダム(確率はどちらも1/2)に選ばれるということです。
今回からは、出会えるマッチングアプリの場合には、運営側はサクラ・業者管理費として月1,000円を支払うため、その分が利益から引かれるものとします。
上の図を見ると、ユーザーにとって利益が出るのは恋人ができた時だけなので、出会えるマッチングアプリを選び、有料会員登録した時だけです。
損をしないことを重要視するなら、有料会員登録をしないのが得策となります。
次は、運営側の利得に注目していきましょう。
有料会員になってもらわないと利益が出ません。
運営会社は、マッチングアプリが出会えるのか・出会えないのかの情報を持っています。
出会えるアプリをリリースするなら月額4,000円で設定をして、出会えないアプリをリリースする場合には月額を2,000円か4,000円か選ぶことになります。
月額2,000円にすると、ユーザーからはサクラ対策をしていないから料金が安いとバレる上に、運営会社にとっての利益も小さくなります。
そのため、出会えないアプリをリリースする場合でも月額4,000円に設定するでしょう。
出会えないマッチングアプリが増えると優良アプリが減る?
この場合に、レモン市場の問題が出てきます。
マッチングアプリをリリースする場合、しっかりとサクラ・業者の監視をする場合、対策費用がかかるので利益は3,000円です。
一方で、出会えないのに出会えますと言ってしまえば、利益は4,000円となります。
そうなれば、わざわざ余計なコストを払うのを避けるため、出会えないマッチングアプリのリリース数が増えていきます。
加えて、ユーザーは有料会員となると損をすることが多くなりそうなので、有料登録しないという選択肢をとるようになります。
実際に出会えないアプリは増えているの?
ただし、実際のこのようにいくかというと、そうとは限りません。
例えば、マッチングアプリは1か月ではなく数か月登録するケースが一般的です。
婚活系のマッチングアプリだとだいたい3か月〜6か月程度が目安の活動期間になります。
そのため、1か月目で出会えないなと判断されてしまえば、2か月目以降の利益は0円となります。
他にも、アプリの悪い口コミが広がってしまえば登録者数も減るでしょう。
基本的には、運営会社とユーザーの持っている情報は同じではありません(情報非対称)が、ユーザーもそれなりに自分で情報の収集が可能です。
また、ユーザーにとって明らかな差別化をすることで、全く同じマーケットで競争しないことも可能です。
これには、ポイント制から月額会員制への変化、Facebook連携と免許証などの書類による本人確認の徹底などがあります。
出会い系サイトから、マッチングアプリや婚活アプリへと変化していったということです。